栄町と共に43年。皆様に感謝を込めて
川棚町栄町アーケード内にある、居酒屋ビストロ萬寿美。地元に愛され、親しまれた名店が閉店の時を迎えます。今回はそのお店を築き上げたご夫婦にスポットを当て、今日に至るまでのエピソードやご苦労などを伺いました。
栄町商店街ってどんなところ?
川棚町の中心に位置する栄町商店街。川棚駅から川棚大橋までの間に、飲食店・衣料品店・雑貨店などが立ち並びます。歴史は古く、昭和21年に川棚駅が現在の国道側に向きを変えたことによって、翌年、マーケット(最初は町営で、のちに法人化される)が新築されました。そこから様々な商店が立ち並ぶようになり、町は活気づいていったそう。商工会や栄町商店連盟も発足し、盆踊り大会や夜市が行われていたこともありました。現在では、かわたな栄町集栄会主催による「100縁翔店街」が年に3回開催されており、賑わいをみせています。
▲街路樹のあった頃の栄町本通りと現在の国道の様子。(写真提供:栄町)
いざ、栄町へ。萬寿美書店の歩み
いよいよ、ご夫婦の物語が始まります。昭和50年、サラリーマンをしていた店主の一憲さんは、東彼杵町で本屋を営まれていたお姉さんご夫婦の勧めにより、川棚町で書店を始めることになりました。当時は、栄町での開店へ不安もありましたが、時代の流れに合わせた商品展開で学生や主婦、サラリーマンなどのお客を掴み賑わいをみせました。
▲書店を営んでいた頃の様子。当時は、本の他にも贈答品などを扱っていたことも。
その後、店舗の老朽化に伴い平成5年に新築し、リニューアルオープン。それを機に、CDなどのトレンド商品を置いたりと、新しいことへの取り組みも行われました。
▲平成5年、棟上げ時の様子。新しい店舗の完成を楽しみにするお二人。餅まきの時には近所の方が沢山来られました。
▲真新しい店舗に喜びと期待で胸がいっぱい!当時はお二人がかわいがっていたシャム猫もいました。
▲『昔の写真がいっぱい出てきたよ』と、当時の様子を懐かしみながら話してくださるふみ枝さん。
お店と共に時を刻んできた思い出の時計
お店の入り口上にある静かに時を刻む一つの掛け時計。これには、ある仲良し3人組の少年達のほっこりなエピソードがあるそうです。
萬寿美書店へ足しげく通っていた3人組の少年達。ご夫婦のことを『おじちゃん、おばちゃん』と親しみを込めて呼ぶほどすっかり仲良くなっていました。毎日何気ない話で盛り上がったり、時には店内のポスター貼りを手伝ってくれたこともあったそうです。そして、リニューアルオープンを迎えたある日、3人からプレゼントを渡されます。それがこの掛け時計でした。当時を振り返り、お二人は嬉しそうに語ります。
ふみ枝さん:この時計は全然狂うことなくて、お店と一緒にずっと歩み続けとるとよ。
多感な時期でもあったであろう学生時代。悩みを抱えた時にふらっと立ち寄って、気さくなお二人と話をするだけで心が楽になることがあったかもしれません。そんなお二人への感謝のプレゼントだったのでしょう。この3人組は今でも時折遊びに来て話をする仲だそうです。お店と共に、静かに時を刻み続けてきた掛け時計。お二人の沢山ある思い出の中の一つです。
“がんばらんば”という精神を頂いた、苦難の時代
皆に愛され、賑わいをみせていた萬寿美書店でしたが、時代の流れと共にスーパーや大手書店の台頭など、様々な影響を受けることになります。それでも足しげく通ってくれるお客様はいましたが、惜しまれつつ26年間続いた書店を閉店することになりました。その後は、大変な日々が待ち受けていました。
一憲さん:当時は、苦労苦労の連続だったよ。タクシーの運転手や夜間の清掃の仕事もした。だから掃除の腕はピカイチ!(笑)
ふみ枝さん:人生、後半がよかったら、いいよね!若い時は苦労していても頑張れるから。
▲当時の苦労したことを淡々と語る一憲さん。
再び栄町へ。ビストロ萬寿美としての歩み
萬寿美書店閉店後、外に行き仕事をされていたお二人でしたが、頭の片隅にはずっとお店のことがありました。自分たちのお店でまたお客様を迎えたいというお二人の想いは常に一緒。今あるお店を活かして二人できることは何か…出した答えは全く畑違いの飲食業。50歳を過ぎてから、新しい道への挑戦を選びました。飲食業に関しては全くの素人だったそうで、まずはお酒の名前を覚えたり、作り方を覚えることから始まったそう。料理はご主人が幼少期から舌で覚えた母の味を思い出しながら、独学でメニューを増やしていきました。
▲入り口付近の棚には、お客様に頂いたものなどがずらり。全てに思い出があり、その一つ一つを丁寧にご説明頂きました。
近年では、旅行などで国内外からお客様が足を運ばれることもあるそう。そんなお客様との語らいが楽しく、お二人の元気の源にもなっています。遠くから来たお客様が「また来るね!」と言って帰られることもあると、嬉しそうに話されました。
▲“萬寿美”にはいついつまでも美しいといわれるお店でありますようにという想いが込められているそう。
取材の途中、名物のから揚げを頂くことができました!ビストロ萬寿美の人気メニューの一つで、この味を求めてくる人もいるほど。味にとことん向き合う一憲さんの真剣な眼差しが垣間見えます。
▲サラダなどの、添え物はふみ枝さんの担当。阿吽の呼吸で準備が進みます。ジュワジュワという揚げる音と共にいい香りでいっぱいの店内。
共に築き上げたお店と別れの時
今後は店舗の売却を検討されているお二人。新しい方がすぐにでもお店を始められるようにと、店内にあるものほとんどをお譲りされるそうです。 思い入れのあるものやお店との別れは寂しいですが、新たな店主の元で活きてくれるのであれば本望ですと語る三根さんご夫婦。 店舗を活用される方へのメッセージもいただきました。
一憲さん:思い入れのある店だから、愛着を持って丁寧に使ってもらえると嬉しいです。
ふみ枝さん:一つでも「おいしい!」と言われる目玉の料理があると、お客さんはどこからでも来てくれますよ。
▲暖簾は一憲さんのお姉様の手作り。
色んな可能性を秘めた栄町商店街。『ご近所の方々も皆さん良い方ばかりだし、場所もいいしお店を始めるには本当にいいところです。』と一憲さん。『若い方に来ていただいて、栄町を盛り上げてほしい。』とふみ枝さんが語ります。
お世話になった皆様へ、感謝の気持ちを込めて
お二人でじっくり考え、何度も話し合いをした末に、引退を決心されました。萬寿美書店から現在のビストロ萬寿美に至るまで、大変だったことより楽しいことばかりが思い出されるそう。お二人は口をそろえてこうおっしゃいます。『国内外から沢山の方に来ていただき、支えられてきました。本当に感謝の気持ちでいっぱいです。感謝の言葉を100個並べても足りないくらい楽しい時間を過ごさせていただきました。本当にありがとうございました。』
お話を伺う間中、お二人はずっと“感謝”という言葉を使われていました。感謝・感謝・感謝。温かいお二人の心からの言葉です。
引退を決められた今、お二人の表情はとてもにこやかで、晴れやかでした。これまでの人生を振り返り、苦労したことよりも、沢山の方と出会えたことへの喜びと感謝を口にされるお二人。ご夫婦二人三脚で走り続けてこられましたが、12月いっぱいで最後のゴールテープを切られます。
引退後は寂しくなりますねと尋ねると、『やりたいことが沢山あるから!』と明るく話すお二人。一憲さんは、趣味の畑仕事を、ふみ枝さんはお友達と過ごす時間を楽しみにされているとのことです。
ビストロ萬寿美
住所/長崎県東彼杵郡川棚町栄町20
TEL/0956-82-5200
営業時間/17:00~
定休日/毎週日曜日
地図/https://goo.gl/maps/husnFkbqw5T2